<前略>
弊社は、@@用の特殊な機械を製造販売しております。販売の中心は、ほとんど昔からの代理店経由か、商社経由で、弊社の用意した商品ラインアップカタログから受注出荷ですので、開発・製造専門に近い仕事の内容とお考え下さい。
ただ受注に関して、都度客先の都合に合わせ取り合い関係をいじったり、新しい機能を追加したりする場合があり、都度の開発設計が必要となります。そのため新機能開発に若手のエース2名を当て、都度対応設計にベテラン3名を当てております。
一方これらの客先の新しいニーズを定期的に織り込んだモデルチェンジを、各機種5年おき目安で行っており、設計部隊の中心はこちらの仕事を行っております。
弊社の創業は明治末期で、祖父の代から何十年も極端な変化もなく、悪く言えばぬるま湯につかった状態で、堅実経営に徹しているところが最大の特徴です。また、技術的にも製品としての基本的部分では大きな変化はありませんでした。
当然、操作系や電気系統などは、逐次新技術を取り入れたり、板金のカバーを樹脂に代えたりなどの現代化は、競合他社に先駆け、対応を行っておりますが、5年置きに行うモデルチェンジの心臓部分である主要メカニズムは、継承技術の横睨みで十分に事が足りております。
このような状況ですので、大分前より世の中が3D CADと騒いでいるのを横目に、2D CADを使い続けており、定年後の再雇用で、現役で頑張って貰っている設計課長などは、未だに製図板に向かっております。そして何の不便も不自由も感じておりませんでした。
ところがここ数年、取引先の部品メーカや外注業者などに、3D CADが無いことを不思議がられ、シーラカンス扱いまでされる始末で、少々とまどっております。
実は20年近く前、私が社長を引き継いだ直後に、何事にも業界で先端を走るのが我が社のポリシーとばかり、3D CADの導入検討を二年以上掛けて行った歴史があります。そしてその結果として我が社では3Dは、不要と結論づけた経緯があり、改めて3Dを再検討する必要も無いだろうと考えているのですが、当時と一つ大きく環境が変わり、その面から一抹の不安はぬぐい切れません。
大きく変わった環境とは、当時は数社あった国内の競合先が、後継者問題や他事業への手を広げすぎた失敗などで、一社を除いて全て無くなってしまったことです。しかもその一社も弊社より大分規模が小さく、弊社の扱う製品は、実態としては独占状態にあります。このため、都度対応の新機機能付加の引き合いが大きく増し、その結果、開発案件が当時に比べて倍増してしまいました。
幸いにして独占状態ですから、製品の値崩れはなく、又韓国や中国などの海外からのコピー製品も、長年地道に出願し続けた特許のおかげで、少なくとも国内では、競合とはなり得ないため、この面からも値崩れが起きず、倍増した都度開発案件も、しっかりその開発費を回収できる、恵まれた環境にあります。
唯一の不安は、我が社製品と比べ機能的には遜色ないのですが、その価格やサービス体制のため、我が国の市場に参入できずにいた欧米メーカの動向です。彼らの製品を安価に中国で生産して、我が国市場に打って出てくる恐れです。言うことを聞かない我が社の姿勢に、腹を立てた某商社が暗躍しているという情報もあり、真剣に我が社態勢の引き締めを行う必要性を感じております。
昨秋頃から様々な方に相談を申し上げたのですが、誰も「今時3D CADも無いのですか?」の絶句から始まる始末で、どうも私の思いを的確に受け止めてもらえていないようで、無駄な半年を過ごしてしまいました。
そのような中で、先生の著書やホームページを拝読致しまして、この先生なら私の思いを的確に受け止めて貰えるのではないかと、突然のお問い合わせを行わせて頂いた次第です。弊社でも3D CADを取り入れ、世間並みの3D移行を行わなければならないのでしょうか。
尚、弊社製品は3面図で十分設計ができる製品で、弊社では、この図面を型紙にしてプラ板や合板を糸鋸で切り出し、動作模型をその開発段階で作成しております。
ピンやシャフト、ネジ類を除きほとんど全てがこのような方法で作ることができ、カバー類は展開図を型紙にしてハサミで容易に作成できる代物です。ですから、仮に3面図段階でミスをしていても、模型試作段階で直ぐ手直しができ、図面が読める、読めないの問題も、それほど設計者達には苦にならない結果となっております。
さらにこのようにして作成した模型は優れもので、実際に動かしてその動作確認を行ったり、作動力や所用力、更には発生応力さえ工夫を重ね読み取ることができるレベルに至っており、先生が仰るフロントローディング設計が、少し形は違いますが十分に実現できていると、先生の御著書を拝読しながら自己満足に浸っております。
<後略>
どうも頂きました情報や貴社HPの製品写真を拝見する範囲では、皆さんの場合には、無理に三次元化を行う必要性は無いと思います。詳しくは、一度おじゃまさせて頂き、お話を伺ったり、設計の状況、動作模型の作製・試験状況、物作り現場などを拝見した上での結論とさせて頂きたいと思います。
少なくとも今現在、三面図を用いた設計行為で、大きな滞りもなくフロントローディング設計が“本当に”実現できているとなると、少なくとも設計という行為では、混乱を引き起こす危険性がある取組を、行うべきでないという結論になります。
特に貴社の場合最終組み立てメーカですし、無理してお付き合いをしなければならない製品供給先(部品サプライヤーとして)もありません。ですから、皆さんにとってベストの方法を、皆さんの都合に従って選べばよい訳で、世の中の動向にいたずらに惑わされてはなりません。
各所で述べておりますが、三次元CADは、設計の道具にしか過ぎません。一方製造業にとっての設計行為は、自社がその糧を稼ぎ出すための、よく売れ、よく稼げる商品(製品)を生み出すための手段であり、極めて重要な行為です。このため、自分たちにとって最も合理的に、その力を発揮できる方法でその設計行為がなされる必要性があります。いたずらに設計ツールを変更したり、それに伴う新しい設計方法の模索など愚の骨頂な話の筈です。
今貴社にとって重要なのは、**さんが危惧をしている、“欧米メーカが廉価な中国生産品を担いでの我が国市場への参入の動向”への先手を打った対策であり、具体的に求められるアクションは、それを迎え撃つための“貴社態勢の引き締め”のはずです。
この面から貴社の現状を徹底的に把握し、問題点を洗いざらい洗い出し、最適な改革・改善計画を策定する事を急務として求められていると考えます。