CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

3次元CADを本格導入して5年経ったが一向にフロントローディングにならない



■質問■

<前略>

弊社では、5年前にフロントローディング設計実現を目指し、設計者一人一台を原則に3D CADの本格導入を行いました。

CAD販社からの教育期間を経て、しばらくの間は設計者達も物珍しさもあったためか、特に若手設計者はCAD画面にかじりついているような状況が続き、導入を推進した私たちも「この調子なら短期間で立ち上がってくれるだろう」と期待と安堵の感を抱いた物です。

しかし現実は思い通りに行かない物で、熱が冷めるとCAD画面の前に座っているのは、その殆どが外注のオペレータとなり、設計者達は自分の机にしがみつくか、調整・打合せと称し競って各部署をさまようかの日々を繰り返しております。

また3D導入の大きな狙いであった、フロントローディング設計態勢には一向に改まる様子はなく、相変わらず開発中盤以降になると、設計担当者は試作工場に入り浸り、貴殿が講演や書物で言われている、作って壊して考えようを繰り返しており、一向に投資対効果を享受できておりません。

そこで私共の素朴な質問にお答え頂きたいのですが、貴殿の講演などで「3D CADを設計者自身に使わせれば、自ずとフロントローディング設計に変革できる等々」と言うお話を聞き、弊社にとっては莫大な資金投資の決断を行った次第で、我が社の現状との齟齬に納得が行きません。

また、弊社の3D導入に骨を折ってもらった販社経由で、貴事務所から得たアドバイスでも、「3Dの道具立てを余裕を持って揃え、設計者達に対する操作教育をしっかり余裕を持って行い、設計者達が3Dを使いたくなるように導けば、後は自然にフロントローディング設計が出来上がってくる」という内容な物だったと記憶致しますが、我々が取り組んだ現実の結末は全く違いました。

この違は何なのか、明快なる回答を求めます。

<後略>

■回答■

冷静になって考え直して頂ければお分かりになると思いますが、道具を導入して操作できる様になったからと言って、何かの技(手法)が感単に会得できる筈がありません。

”大工道具を購入し、半年間職業訓練教室の大工コースに通ったら、立派な数寄屋造りの豪邸を頭領として建築できる”
”プロの料理人が使う包丁類を一式購入し半年間料理教室に通ったら、ミシュラン3星レストランレベルの料理ができる”と言っているような物です。

これまで私の講演や著作物などで、「3次元CADを導入したらフロントローディング設計態勢が実現できる」「3D CADを設計者自身に使わせれば、自ずとフロントローディング設計に変革できる等々」などと申したことは、一度もございません。「設計者自身に直接3次元CADを使わせ設計をさせなければダメだ」とは常々申しておりますがこれとは意味が違うはずです。

私の著作物などをお読み頂ければ判ると思いますが、フロントローディング設計実現に対して、3次元CADは、あくまでもそれを実現するための道具の一つでしかありません。重要なことは、設計者一人々が、真剣にその設計行為を着実に遂行する事です。場合によっては、3次元CADなど無くてもフロントローディング設計は実現できます。

さらに設計者一人々に取ってのフロントローディング設計とは、単に自分が担う範囲に留まらず、担当周辺範囲、設計テーマ全体、さらにはその製品が販売されてお客様に使用頂く場面までの全体を、その思考範囲に入れ、あらゆる場面で一切の問題を起こさず、最大効率で生産され、一切の“害”を生じさせないよう、“気配りと”“チェック“を繰り返す取組です。当然所定の機能・性能が発揮できることは大前提の上でです。

**さんは、本当に私の講演をお聞きになられたことがございますか?又私の著作物、特に日刊工業新聞社からの一連の単行書籍、「機械設計誌」での一連の連載などをお読み頂けておりますか?恐らくお問い合わせ頂いたご理解(全く的はずれな理解をしている)の度合いでは、いずれも無いのではと疑わざるを得ません。

さらに分らないのは、貴社に3次元CADを納入した販社が貴社に示した“私共事務所のアドバイス”なる物です。私共からこのような販社経由で、私共のコメントをエンドユーザに向かって発信することは一切あり得ません。

開業以来18年、私の記憶を辿ってみても、貴社の案件だと相談を受けたこともありませんし、特に貴社が本格導入をされた5年前などは、「直接私共の手でエンドユーザに対する現状診断を行わない限り、不確実な条件情報の中ではコメントすらできない」との対応を10年以上前より行っておりますので、私共がその販社経由で貴社宛のアドバイスを発することなど絶対にあり得ないことです。ですから、直ぐにでもその販社に苦情を言われた方が良いと思います。

損害賠償請求もできると思いますので

ところで、本気で貴社がフロントローディング設計態勢確立をを目指すなら、弊社の“現状診断”の受診をお奨め致します。私共の長い経験からも、このような”技”を取得するためには、自己の現状を明確に把握した上での的確な手順作り(仕組み作りと、技取得のための施策策定)が必須です。

さらに申しますとフロントローディング設計態勢確立は貴社にとってあくまでも手段の筈です、フロントローディング設計態勢を確立して開発設計作業の生産性向上をや質の向上を図ろうとする目的があるはずです。

そうであるなら、貴社現状における開発設計の生産性向上や質向上を妨げている病(悪いところ)を的確に漏れなく探し出し、これらに悪い度合い順に優先順位を付けて手当をしてゆく取組が必要なはずです。

その結果恐らくフロントローディング設計態勢確立も必要とされるでしょうけれど、場合によってはもっと他の取組が重要だという結論になるかもしれません。そうすると貴社のこれまでの取組は結果として遠回り(いずれにしろこれまでの取組は遠回りであり、膨大な無駄な時間と費用を費やしたと思いますが)と言え、早急に方針の立て直しを必要とされる事になるはずですので。