CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

実質設計作業に3Dを使っていない場合でも、金型に都合の良いCADに統一してはいけないのか?



■質問■

<前略>

10月23日掲載の「なぜ金型設計加工に都合が良いCADに製品設計用CADを統一してはいけないのか」を拝読して質問をさせて頂きます。

弊社でも23日掲載の企業と同様に、設計部門と我々生産技術部門が、異なる3D CADを使用しております。

たぶん有泉様はご記憶にあると思いますが、我々生産技術での3D導入の歴史は長く、既に導入してから20年以上が過ぎております。有泉様は、既に技術士にはなられておられたと思いますが、未だ独立される前で、当時おられた会社**のコンサルタントとして、弊社にも幾度もご足労頂きました。

当時弊社では、設計部署での3D導入など全く意識が無く、樹脂成形金型やアルミダイキャスト金型設計と加工、さらには鋳物の鋳型設計と加工を合理化する目的での、3D CAD導入検討でした。

しかし当時有泉様がおられた会社が扱っていたアイデアスでは、我々の目的には不適だというコメントを有泉様から頂き、弊社の目的なら****が向いているだろうと言うご推奨を頂きました。

実はその後ご報告申し上げなかったのですが、有泉様の推奨に従い****を導入し、現在も未だバージョンアップを続けながら使い続けております。

おかげさまで****で弊社の金型開発は画期的な合理化が図ることができ、我々一同「有泉様には足を向けて寝られ無い」と常々話をしております。その節は誠にありがとうございました。

さて質問させて頂く背景ですが、弊社の製品は有泉様もご存じのように、無理に3D設計をしなくても3面図で十分質の高い設計ができるような形状、構造です。確かに一見複雑そうに見えるのですが、製品を知っておりある程度図面を読める人なら、3面図から苦もなくその形状や構造を読み取れる特性を持っており、そのためもあり設計部門は長らく3D導入には無頓着でした。

しかし10年ほど前、あるコンピュータ販社のセミナーに参加してきた弊社トップから「今時、設計に3D CADが入っていない製造業など我が社くらいだ。何をしている直ぐ入れろ」の大号令があり、いつの間にかその販社が扱う3D CADが設計部門に導入されました。

しかし導入した設計部門の当人達は、何の目的で3Dを入れるかを殆ど考えておらず、しばらくは部屋の隅に放置されているような状況が続いておりました。ところが設計部門の責任者以下は、安くはない投資を自らの意思ではないにしろ行ってしまったため、その投資対効果の数字を管理部門から求められ、大あわてしてその活用方法を考える始末でした。

そして我々部門の手助けで、物作りへのデータ一貫性の確立と言う大義名分を打ち立て、設計部門で3Dにモデル化した製品形状を、我々生産技術部門に流してくる流れが確定致しました。

23日掲載企業のような我田引水的な動機は無かったのですが、本来2次元の3面図で用が済んでしまっていた設計部門に、設計終了後の製品継承を3Dにモデル化すると言う余計な仕事を押しつけた結果になってしまいました。しかもモデル化作業は、設計者達の手は割けないと、派遣のオペレータを使ってのモデリング作業です。

さらに始末が悪いのは、設計部門が導入したCADが我々のCADと異なっているため、そのデータ受け取りに頻繁にトラブルが発生しすることと、オペレータが頻繁に入れ替わるため、我々から要求しマニュアル化してあるモデリングルールも守られず、結果我々サイドでのモデル修正を余儀なくされ、我々の頭痛の種になっております。

しかも昨今の派遣オペレータ削減の影響を受け、設計サイドから出されてくる3Dモデルが遅れがちで、我々サイドの業務に支障が出ております。

そこでこのあたりの見直しを行おうと考え設計部門と詰めているのですが、設計部門としては「やはり3Dは要らないので止めようか」などとの声が上がってくる始末で、良い落としどころがなかなか見つかりません。

そこで私からは思い切って、「これまで設計で行ってきたモデリング作業は、我々サイドでやる」「その代り、時間を掛けて良いので、構想設計から我々が用いている3D CADだけで、効率よく質の高い設計を行なえる仕組みを確立してほしい」と言う要求を出そうと考えておるのですが、有泉様のご意見をお聞かせ下さい。

<後略>

■回答■

基本的には良い決断だと思います。

元々3次元CADを用いなくても、質の高い設計ができる製品特性を持った貴社製品ですので、これまで設計部署で3次元CADを用いる必要性は薄かっただろうし、派遣オペレータを用いてのモデリング作業など設計部署で行うべき仕事では無かったはずです。

と言うことになると、@@さんからの「その代り、時間を掛けて良いので、構想設計から我々が用いている3D CADだけで、効率よく質の高い設計を行なえる仕組みを確立してほしい」と言う要求には、少し無理があるのではないかと思います。

しかし20年前と比べ3次元CADの性能は、格段の進化を遂げております。また優秀な設計者(候補生)の供給が20年前と比べ格段に供給されづらくなっており、20年前なら切捨てていた、3次元対応能力が劣った要員でも設計戦力として活用する必要があります。

さらに、3次元CADが設計ツールの基幹となり暫く時間が経っておりますので、フロントローディング設計などに用いるCAD周辺の設計ツール群は、原則3次元CADがあることを前提に用意されるようになってしまいました。

このような現状を考えると、貴社設計部門も真剣に3次元設計に取組時期が来ているのかもしれないとも考えます。そうなると@@さんからの「その代り・・・」もOKと言うことになります。

しかしこのあたりは、貴社の現状を詳細に拝見しないと断言は難しく、これを機会に弊社の“現状診断”を受診されることをお奨め致します。貴社製品開発の本格3次元化の問題に留まらず、さらに強い、強力な製品開発態勢に向けての体質強化案などを、ご呈示できると思いますので。