<前略>
弊社では、長年製品設計部門が用いている3D CADと、我々金型部門が用いている3D CADが異なる状況が続いております。そしてその両者間では、データ変換ソフトを介してのデータ転送が行われております。
10年ほど前より、幾度か両者のCADを統合しようと言う話が持ち上がったり、他社から来た役員が、「なぜ違うCADを使っているのか?非効率だ!即座に統一しろ」などの号令が下されたこともありました。
しかし10年前は、金型部門は3Dが主流になっていたのですが、設計部門ではまだ十分に3D CADが用いられておらず、「仮に統一しても2D CADデータの三次元化は、製品設計サイドでは行うつもりもないし、行う筋合いもない。だから統一したとしてもその効果は薄い・・」などの異論が出され、結果はバラバラに異なるCADを展開することになってしまいました。
さらに五年ほど前、製品設計部門の3D使用率も増えたため、設計〜物作りへのデーター一貫性を目指して、3D CADを統一しようと我々サイドから持ちかけたのですが、「なら金型部門のCADを我々のCADにあわせたら?」「激化した開発競争で、開発業務は全く余力がない、そんな中で不要不急なCAD統一などと言う寝言を言うな。製品設計側にはそんな余裕はない!」の一言で片付けられてしまいました。
そして開発競争も鎮火した今、「後工程は神様だ。源流工程が後工程の物作りの都合に合わせた努力を行うべきではないのか?」という疑問提起をし、再度CAD統一の要求を行ったところ、おもむろに貴殿の著書や雑誌の切り抜きを示して、「専門家も安易にCAD統一は行うなと言っている」。「それぞれの事情に不都合があれば、改めてCAD統一は安易に行うべきではないと言っている」と聞く耳持たぬ態度で、“統一する際に最優先で注意しなければならないのは、製品設計者達の思考中断を生じさせたり、その作業に非効率を起こさせないことだ”などと説明された貴殿の著書を、バイブルが如く扱い、拒否の姿勢で臨むだけで、一向にCAD統一の議論は深まりません。
そこで貴殿に質問ですが、そもそも製造業のあるべきは、「後工程は神様だ」の精神で、常に後工程の都合を最優先に配慮しながら様々な決断を行ってゆくべきだと考えるが、貴殿はなぜ上記のような発言を公然と行っているのか説明頂きたい。
<後略>
少し冷静になって考えれば、少し冷静になって私の著書類をお読み頂ければ、あえて私が説明しなくても理解できる話だと思います。
まず**さんは、かつてより「後工程は神様だ」の姿勢で、製品設計サイドと接しておりませんか?「前工程は後工程のために何かをやってくれて当たり前」などという、極めて勘違いをした甘い考え方です。
そもそも私の知る同様のフレーズは、TQCの中における「後工程はお客様」。トヨタ生産方式における「前工程は神様、後工程はお客様」です。貴社で言う「後工程は神様だ」とはいったい何を意味するのかまず私には理解ができません。
ちなみにTQCにおける「後工程はお客様」とは、“自分たちが行った仕事の後工程はどこか、または誰かを確認し、自分たちが行った仕事が最終のお客様にどのような影響を及ぼしているかを常に念頭において、後工程の満足度を高めてゆく“という考え方であり、あくまでも最終のお客様のためになる事が目的です・そしてこのために前工程には、先手を打った取組を求めているわけで、工程間における次工程の我が儘にも似た満足度を高めることではないはずです。
さらにトヨタ生産方式における「前工程は神様、後工程はお客様」とは、“前工程の成果物は、後工程にとっては自らコントロール不可能な神の領域である。だから前工程は後工程をお客様だと思って絶対に不良品を流さないよう努めなければならない”と言う意味だと理解しております。
ですから私には、貴社が言う(もしかしたら**さんだけが言う)「後工程は神様だ」の指す意味が、恐らく“「前工程は後工程のために何かをやってくれて当たり前」などという極めて勘違いをした、我田引水的な甘い考え方”だとは見当が付くのですが、正確には理解できないわけです。
さて一般的には製造業にとっての製品開発部署は、その製造業の命運を左右する極めて重要な役割を果たしている部門だと理解致します。お客様に喜んで買って頂ける商品(製品)を、利益の出せる価格で、安定した品質を持って需要量供給できる開発を全うしなければならない使命を持っているからです。
ですから可能な限り同部門のスタッフには、余計な負担は掛けず、製品開発のために、持てる知識や知恵を最大効率で駆使して、目的の設計作業に没頭できる環境を提供すべきだと考えます。最低限の必要要件とも言えるでしょう。
このような設計スタッフに、その設計作業で最も重要な構想設計作業などが行い辛くて仕方がない様なCADを無理矢理使わせたら、その設計・創造作業には大きなマイナスが生じることは、容易に理解できるでしょう。
仮に現状利用しているCADが、本来なら好ましい物でなかったとしても、馴染んでしまっていたら、よほどひどい物でもない限り、もう取り替えることは、得策ではありません。そのくらいシビアーな話です。
ところが**さんが、貴社製品設計部門に統一化を要求しているCADは、確かに金型設計用途やその後工程の加工用途には使い勝手の良い、金型専業メーカが好んで用いているCADですが、少なくとも私が知る我が国製造業の製品設計部門では、ほとんど用いられていないCADです。
さらに私の評価では、製品設計用途としては問題外の評価を下しているCADです。だから貴社製品設計サイドは、いろいろと言訳を並べて、**の要求を陰に陽に逃げ続けているのだと思います。そして最近は、私に**さんの怒りが向くような作戦を取ったのでしょう。
恐らくこれまでの貴社内の実績の中で、**さんの発言を真っ向から否定できないような力関係ができているため、製品設計部署から**さんを排除しようとするまでの、露骨な否定ができないのかもしれませんが、彼らはきっと困り果てているはずです。「また**さんのいつもの手前味噌な我が儘が始まった」と、嵐の過ぎ去るのを首を竦めて待っている状態だと思います。
ちなみに部外者の私に言わせれば、このようなCADを無理矢理製品設計部署に使わせようとしている**さんは、もしかして貴社を潰そうとしているどこかの手先ではないか、とさえ思えてしまいます。