CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

製品品質を落としての開発期間短縮や開発工数削減は本末転倒、結果として利益を潰すことになる



■質問■

<前略>

弊社では、8年ほど前から先生の御著書などを参考にさせて頂き、フロントローディング設計に取り組んでおり、2年ほど前にはほぼ目標達成の域に到達できたと、自負しておりました。

我々が特に集中して取り組んだのは、先生も指摘されている開発段階における無駄の撲滅です。先生がその御著書でも述べておられる“作って”“壊して”“考えよう”を設計の初期段階から徹底的に潰し込むアプローチを、様々な試行錯誤の上、それなりに確立することができたと考えております。

あわせて、厳しすぎると思われる品質評価基準を原点に立ち返り見直し、何が何でも高品質という考え方を改め、我々が考える製品として、求められるべき妥当な品質さえ満たせばよい、との価値基準に基づいた評価基準に改め、必要以上の品質を要求して開発期間や開発コストに悪影響を及ぼしていた従来の悪弊を一掃致しました。

さらに、時間の掛かる耐久性能などの評価方法も、その評価の目的を明確にして、考えられる最も合理的な加速試験を考案し、この面からの開発期間大幅短縮をも実現できたと自負しております。

そしてその結果一昨年には、私共の事業部はこれまで経験をしたことが無い高い収益をあげ、全社・全グループから注目を浴びる存在となれました。

ですから一年前に突如起きたリーマンショックにも、元々利益率の高い製品の特性もあり、相当な不況状態に陥っても、我々だけは十分に対応できる体力が既に確立できており、苦もなく乗り越えることができると高をくくっておりました。

ところがこの連休明け(有泉注;この連休とは5月の連休)以降、特に米国市場を中心にクレームが頻発し、その対策に追われる状況に陥ってしまい、苦もなく不況期を乗り越えるどころか、苦境のどん底に陥ってしまいました。

クレームは、特定の一機種に留まらず、07年以降に開発を完了し、市場投入を行った初期製品に満遍なく発生しており、内容を詳細に分析すると、気候的地域特性があるようで、米国市場でも高温・乾燥・塵肺などの条件が厳しい地域にクレームが集中している状況で、その事故内容は突き詰めると、材料に起因する経時劣化が原因と思われ、我々が行った価値基準・品質評価基準の見直しが問題発生の大きな原因と考えられます。

しかし一連の取組の中で、現在問題が多発している地域の特性は我々自身十分に承知をしており、表記基準の見直し時にも、この特性に十分配慮したはずだったのですが、何か重大なポイントを見落としてしまったのではないかと苦悩しております。

極めて漠然とした情報だけで、コメントのしようが無いかもしれませんが、数多くの製造業のご指導をなされて来た、先生のご経験の中で、私共のような問題を引き起こしている例がございましたでしょうか。またそのケースでは、何が悪くて問題を起こしてしまったのでしょうか。極めて漠然とした問い合わせで申し訳ございませんが、アドバイスを頂けますと幸いです。

尚、並行して上層部に対して、先生のご指導を仰げるよう上申を致しております。詳しくはその際にご診断頂く事として、今回は、私どもと同様な他社ケースをお教え頂けたら幸いです。

<後略>

■回答■

私が深く関わったケースでは、お問い合わせ頂いた様な問題発生は、これまでございませんでした。

しかし、貴社のように自力でフロントローディング設計に取組み、且つ製品価値の物差しや品質評価基準部分にまで手を入れた製造業で、同じような問題を生じさせていたケースがございました。

そしてその原因は、言葉で言ってしまえば極めて簡単で、製品価値の物差しや評価基準を見直すに際して、十分に伝承されてきたそれらの持つ意味をかみ砕くことができず、また対象製品が用いられる環境や条件などを十分に把握できずに、“不適切な製品価値の物差しや評価基準”に改悪してしまったケースです。

恐らく貴社のケースもこの範疇ではないかと考えますが、正確なところは貴社から洗いざらい情報を頂いた上でないと、軽率に断言はできませんので悪しからず。

私共は「設計思考展開」(DPD)という手法を提唱しております。そしてこのようなケースでは、設計思考展開を用いた対象製品のあるべき姿の解明作業に、それぞれの企業の総力(あらゆる情報や継承技術・固有技術とあらゆる頭脳を駆使して)を挙げ、取り組んで頂いております。

その結果、継承技術としてその目的や狙いが十分に伝承されてこなかった製品価値の物差しや、品質評価基準の持つ真意を十分に解きほぐす事ができ、その真因に齟齬のない形で、新しい製品価値の物差しや評価基準へと結びつけることができます。

膨大な手間は掛かりますが、愚直にまで踏むべき手順をしっかり踏む事で、貴社が陥ったと同じような状況に陥ることなく、より無駄の少ない質の高い製品開発が叶う組織へと、結びつけることができるのです。

貴社でも、このような愚直な取組が改めて必要と考えます。