<前略>
リーマンショック以来、低調が続く北米を中心とした弊社商品の主力マーケットが復活するのは、まだ遠い話だと覚悟しております。
しかし急激に落ちこんだ売り上げは、これまで長い間健全経営を続けてきた弊社と言えども、予断を許さない状況が刻々と迫っていると言う事に他ならず、我々としても手をこまねいて窮地に陥るわけにも参らぬと、この年初以来、経営幹部は基より中堅社員をも含めて喧々囂々の議論を行って参りました。
そしてこの結果、既に時機を逸している可能性は多いのですが、中国を中心とするボリュームゾーンへの新規展開を図ろうという結論に至りました。
しかし弊社はこれまで、高品質・高級イメージ・高価格という高所得者層をターゲットにした商品を主力にしてきたため、中国などの様な、低価格で商品価値の低い製品の開発経験を持ちません。
一部には、20年前の製品を見かけを変えて投入するべきなどの意見がありますが、調達部品の入手性や購入価格からこの意見は、採用に値せずの結論に至っております。
そこでこれまでお付き合いの無かった先生に極めて不躾な質問ですが、先生はこれまで弊社のようなケースに関わってきた例はございますか。もしある場合、その成果は如何だったでしょうか。さらに弊社のコンサルをお受け頂けますでしょうか。
<後略>
まず結論から申しますと、貴社がこれまで得意とされてきた、高度成長国の高所得者向け多機能高品質商品をベースに、開発途上国の低所得者向け低下価格商品に仕上げることは殆ど無理と言っても過言ではないでしょう。
恐らく貴社の20年前の商品でも、このマーケットには過剰品質且つ高価格な商品になってしまうに違いありません。
ではどうすれば良いかですが、まずはマーケットの状況を徹底的に把握することです。ユーザーのニーズは基より、参入しようとするマーケットの競合製品の情報、競合メーカの戦略、現地生産を目論む場合の生産拠点の可能性若しくはパートナーの有無その力量、さらに素材や部品の現地調達性、さらには販売網整備におけるマーケットの制約やパートナーの有無など、把握しなければならないことは際限なくありますがこれらを漏れなく把握することが全ての始まりでしょう。
そしてこれらの情報を基に私共が提唱致します、フィジビリティースタディーを徹底して行えば、勝算の有無が判り、行けそうな場合には商品企画が叶うことになるはずです。
口で申す分には、何とかできそうな話ですが、貴社ができるかどうかに対しては、私のこれまでの経験から独断と偏見で決めつけるなら、恐らく無理だと思います。
貴社のこれまでの文化や既存の物作り技術は、上記した高度成長国の高所得者向け多機能高品質商品開発技術です。恐らく右に出る物がいないほどの高度な物をお持ちだと端から見ていても判ります。これまで貴社と同じような戦略を、サブプライムローン破綻以降(リーマンショックの一年以上前)に取ろうとされ、私どもがお手伝いを申し上げた、貴社に極めて特性の近い製造業様が3社ほどあります。しかしいずれも私の口からはギブアップされることをお奨め申し上げております。
このような事情から貴社の目論見を無理だと決めつける次第です。
一方20年以上前から、貴社が目を向けようとされているマーケットに手を付けていた弊社クライアントは、少なからずあります。そしていずれも幸いにして、昨今の不況下でもその経営を下支えしてくれるにまで育って来ております。しかしここに至るまでには、直接私が深く関わっていたわけではありませんが、その私でさえ記憶の各所に強く残るような艱難辛苦を彼らは乗り越えてきました。
ちなみに、結果論ですが彼らの展開方法は極端な二手に分かれており、前者は、あくまでも高品質・高機能を売りにしたブランドイメージの定着による、ある意味正攻法の展開結果です。そして後者は。台湾系企業と組むなどした、まさに貴社が狙おうとしている中国などのマスマーケットを狙った、薄利多売のビジネスからのロイヤリティー利益です。
しかしいずれの各社も、近い将来も含め未来永劫、現状のビジネスが継続できるとは考えて居らず、いつでも撤退できる態勢と覚悟はできている上での成功であることを補足しておきます。
以上長々前置きを述べましたが、上記のように貴社が狙うような場面での支援の経験は十分ございますし、お手伝い差し上げることも吝かではありません。しかし私にお支払い頂く費用が無駄になりませんように、前もって議論をさせていただいた方がベターと考えます。当然有料で。
尚余談ですが、ボリュームゾーンと言う言葉の使い方に疑問を感じます。一部企業などでは、中国や東南アジアマーケットさらにはインドまでを含めたマーケットを指し、ボリュームゾーンと読んでいるようですが、本来の意味とは違うと思います。本来のボリュームゾーンとは、商品それぞれの最も量が売れる価格帯即ち購買層の多い価格帯を指していると私は理解しております。