CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

半年でフロントローディング開発態勢を確立することが可能か?



■質問■

<前略>

弊社では、この連休中に幹部総出でこの不況状態から脱却すべく、様々な課題に対して喧々囂々の議論を繰り返しました。その結果、我々製造業の本分は物作りであり、物作りを通じて利益を上げる製造業本来の原点に立ち返るべきだという意見が大勢を占め、そしてそのためには物作り体質の基盤である開発力の強化を行い、開発の質・効率の向上を最優先で早急に実現すると言うことで概ね合意ができました。

しかし永年開発部門に関わってきた私たちにとっては、実態とその難しさを知らない営業や管理部門の無い物ねだりにも似た、責任押しつけの結論と見えてならず、技術サイドの一部には、「短期間で開発力の強化など現実的に不可能、そもそも開発部門への優秀な人材の供給や人材育成の余力を与えてこなかった経営側の責任をまず明確にしろ」などと頑強に反対する者もおり、「概ね合意」になった次第です。

この様な経緯があり、連休で休暇中の配下のマネージャ達に「弊社の取り組もうとしていることが本当に実現可能か否か、参考例、参考情報、ご指導を仰げそうな先など、インターネット、書籍、学会関係などあらゆるメディアや人脈から、可能性のありそうな情報を集めろ」との指示を出しました。そしてその結果、殆どのマネージャが貴殿のホームページに行き着き、さらに数名はその人脈などからも貴殿の推薦があったそうで、彼らの多くから貴殿にご相談申し上げるべきだとの提案がなされました。

早速、貴殿のホームページにあるメッセージやコラムなどを熟読させて頂き、貴殿のお考えに賛同できるところが多く、特に原理原則を大切にするお考えと、十数年来迷いのない主張に対しては感銘と敬意を感じました。

そこでご質問ですが、添付致しますような弊社現状下から半年余りで、フロントローディング開発態勢確立が可能か否か、又その際ご支援を御貴殿に仰げるのかお答え頂けますと幸いです。

尚添付致します資料は、お恥ずかしい内容ですが、弊社のトップシークレットの情報です。弊社外は当然のこととして、弊社内一般社員や組合などには絶対開示できない情報です。御貴殿が技術士法に基づく技術士であることをご信頼申し上げ開示させて頂きますが、くれぐれもこの扱いにご注意頂けますようお願い申し上げます。

<後略>

■回答■

添付頂いた資料を拝見致しますと、「貴社現状下から半年余りでフロントローディング開発態勢を確立することは無理」ではないかと思われます。

その理由は、連休中皆さんが行われた議論の議事録から垣間見れる状況が、設計や研究部門を除いた部門が、まさに**さん達が感じておられる「無い物ねだり、責任押しつけの」姿勢と見えるからです。

製造業の根幹である新商品(新製品)の開発能力は、設計や研究部門だけで持ちうる物ではありません。事業に関わる全社員が一丸となって初めて強力な開発態勢が確立できる物です。私のホームページを隈無くお目通し頂けましたなら、各所で何が必要か、どうすればよいかを述べてあったはずです。

ところが皆さんが行われた連休中の議論は、私に言わせれば“責任の擦り付け合い”であり“ババ抜きのジョーカーを騙しの手を使って源流・中核部門に押しつけ”ようとする、余り感心のできない不毛な議論が続けられた結果の結論と理解致します。

私のこれまでの経験では、スタート時点での各部門間の意識の齟齬が貴社の現状のような状態であった場合には、その殆どが失敗に終わっていると認識します。厳密には、私どもの開業初期以外は、このような状況下からのご支援は、私の方からお断り申し上げるケースが殆どで、失敗に終わったか否かの結果まで見届けていないというのが正確なところですが。

極めて少ない例外として、私どもが提示する関係者全体の意識改革策、体制改革策、組織改革策、技術増強策などを、責任ある方々の言質を頂いた上で、原則私どもの提示通りの計画とスケジュールで実行頂いた例が何ケースかございます。このケースでは途中で私どもから仕切直し提案を行った一件以外は成功しておりますが、半年では無理でした。

さらに奇しくも**さんの同僚の方が頑強に主張されている「そもそも開発部門への優秀な人材供給や人材育成の余力を与えてこなかった経営側の責任」は極めて重要なポイントと考えます。皆さんの議論の経緯やお送り頂いたその他資料から判断して、私が最も忌み嫌う、ものづくりの本質を無視した、バブル崩壊直後は役人的自己保身感覚での末端切り、回復期以降は欧米流のつじつま合わせ経営がしばらくの間続いていたと判断できます。そしてその間に貴社の製造業力は徐々に低下してしまい、この連休中皆さんが行った総括に結びついているのだと理解致します。

バブル崩壊以降の開発力維持・向上を無視した貴社の経営は、間違いなく貴社の開発技術力や物作り力を根底から大幅に低下させていると理解致します。10年以上の期間を経てその根っこから徐々に低下した開発力の低下です。それを半年間で元に戻しさらに飛躍的に進化させようとお考えになる皆さんの思考の甘さに驚きを禁じ得ません。この面からも「無理だろう」と言う私の感想に至るわけです。

いずれにしろ早急に私どもの「現状診断」の受診をお勧め致します。その結果で貴社環境で本当に皆さんの目論見が巧く行くか否か、どの程度の時間が掛かるのか、どのように進めればよいのかなどを明確に判断でき、ご提案・ご報告申し上げることができますので。


<参考>

技術士法 第45条

技術士又は技術士補は、正当の理由がなく、その業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。技術士又は技術士補でなくなつた後においても、同様とする。

技術士法 第59条

第45条の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。