CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

3次元CADのメンテナンスコスト削減には、バージョン凍結も一つの選択肢


■質問■

<前略>

未だしばらく回復の見込みのない市場環境の中で、本年度も大幅な経費削減を求められており、様々な取組が昨年度より行われて参りました。

そしてこの様な状況下で、設計部門の事情に疎い管理部門から、当部のIT関係メンテナンス費が他部門に比べ異常に突出していることを槍玉にあげられ、今年度の部門目標として四分の一に削減することを求められております。

我々としては、頭脳集団としての設計部署のIT費用が、他部門に比べ突出していても決して異常なことではなく、特に3DCADやCAEなど高価なソフトを設計の必須ツールとして用いているのだから、他部門と比較する事そのものが誤りだと反論するのですが、「何か工夫できるだろう」と聞き入れてもらえません。

一方当社のトップは、若い頃10年ほど設計に所属しており、私が新入社員当時の直属の係長だったこともあり、我々の味方にと直訴に及んだのですが、結果はやぶ蛇になってしまいました。

「俺らはこんな高い道具を使わずして、手書き図面で十分立派な設計ができていた。」「当時に比べこの高い道具を使うことで画期的に設計の生産性が上がったのなら目をつむることもできるが、当時に比べ設計者を半減できるほど生産性を上げてきたのか?設計の質は上がったのか?」と、痛いところをつかれ、管理部門の要求をのまざるを得ない状況にあります。

とは言っても管理部門の要求に従い3DCADのメンテナンス契約を止めてしまった場合、ハード側の進化に対応できなくなる問題と、ソフト使用上のテクニカルサポートが受けられなくなる問題が生じ、設計業務に悪影響を与え、虻蜂取らずのような結果に終わることを恐れております。

百年に一度と言われる今回の大不況下で、このような問題は当社に限ったことでは無いと考えます。幅広く様々な業界に対応なされている先生は、この問題をどのように対処なされておられるのでしょうか。

<後略>

■回答■

全ての3次元CADに当てはまる話ではありませんが、少なくともメジャーな3次元CADの半分以上は、ほぼ完成の域に到達できていると私は評価しております。

故に、これからしばらくの間エンハンスメント(ソフトのバージョンアップ)を行わなくても、設計の道具として遜色なく活用してゆけると判断しております。と言うか、現時点でソフトが持つパフォーマンスに対して、エンハンスメント契約を結んでバージョンアップを続けていてもいなくても、5〜10年後時点でそれ程設計の生産性に大きな差が出ないと考えております。

一方パソコンのOSであるWindowsも完成の域に到達しており、私に言わせればWindows XPでこの先10年は充分だと考えております。そしてその結果、パソコンハードは最新の高グレードの物である必要はなくなり、大幅にハードに費やす経費も削減できるはずです。

現に私の事務所では、インターネットにつながないパソコンは原則Windows 2000で統一しております。10年近く前に購入したマルチボリュームのライセンスの有効活用がその根底にありますが、事務用途はもちろん、それぞれソフトの最新機能は使えませんがCAE解析他も、Windows XPどころかWindows 2000で充分間に合っている状況です。インターネットにつなぐ物についてはウイルス防止ソフトが既にWindows 2000へのサポートを打ち切った物もあり、その都合でWindows XPが中心です。

余談ですが、私どもの重要なセールスポイントでもある最新ソフトの機能評価だけには、最新のOSを用いる必要があります。また客先の都合に合わせ古いOSでの検証作業なども必要になる場合があります。その結果事務所内にはWindows Vistaから95までの新旧Windows、SolarisからLinux Red Hatまでの様々なUNIXが混在する状況です。しかしこれはあくまでも最新ソフトの機能評価や客先で起こる様々なトラブルの検証目的ですので一般のユーザはまねる必要はありません。なお「Windows XPでこの先10年は充分」という判断はこのような環境下で結論づけた物です。

本題に戻りまして、お問い合わせに対する結論は、メンテナンス契約を打ち切っても設計の生産性という観点で見たとき、大差はないので、対象ソフトのテクニカルサポートの問題を除いては、即刻打ち切りなさいと言うことです。

一方対象ソフトのテクニカルサポートの件ですが、貴社では対象の3次元CADを導入して既に十年以上経過しているのではありませんか?

一般論ですが、エンハンスメント(ソフトのバージョンアップ)がない場合には、十年以上も同一ソフトを用いているケースでは、ソフト販社からのテクニカルサポートは不要になるケースが殆どと考えます。貴社でもこの範疇に既に入っていると思いますので(範疇に入っていると皆さんが自覚できているなら)、メンテナンスを停止されても支障はないのではないかと考えます。

ただし日本中、いや世界中のユーザが、メンテナンス契約を停止し新製品も購入しないとなると、CAD開発元や販社は消滅してしまうことになりますので、この部分での保険を掛けておくことは必須です。どのような対処を行うかのこれから先は、ご依頼頂けましたら私どものビジネスとしてご支援申し上げます。