<前略>
弊社では30年来CAEを用いており、様々な場面で役に立ってきたと自負しております。しかし有泉さんが言われる、製品設計の全般にわたって問題点を隈無く洗い出す用途という視点で見たときには、そう言った活用事例がほとんど無かったのではないかと記憶致します。
確かにADAMS等を用いて、メカの大まかなあたりを付ける解析などは頻繁に行うのですが、あくまでも設計初期段階での、あたりを付け構造や機構を絞り込んでゆく用途であり、製品化された後起こるであろう問題点を予測する解析ではありません。
ですから、有泉さんが言われる、究極は一切の設計手戻りを犯さない予測型設計には、ほど遠い用い方ではないかと思っております。そして2年ほど前から、この予測型設計にCAEを適用できないか様々な取組を行ったのですが、芳しい結果が得られない状況です。
なぜならそれぞれの製品を開発してゆく中で、担当する設計者達が持つ経験やスキルに基づいた設計の狙い(有泉さんが言う設計の意図?)が各所で生じます。そしてこの設計者達の思いは人それぞれで、必ずしも画一化できません。ここに予測型設計へのCAE活用の難しさを感じております。AさんやBさんの考えを聞きながら模索した予測型のCAE適用方法が、違うチームの人たちからは全く受け入れてもらえなかったなど序の口で、当事者達自身がどのようにすれば予測型のCAE適用ができるのかがよく分らないと言う状態です。
そこで質問ですが、有泉さんはこのような問題に対してどのような手だてを打たれているのですか。製品設計の全般にわたって問題点を隈無く洗い出すと言うことは、並大抵のことではないと思いますが、ご教示頂けますと幸いです。
<後略>
まずお答えに入る前に、“ADAMS等を用いてメカの大まかなあたりを付ける解析”は既に立派な予測型設計へのCAE活用とお考え下さい。
あらゆる機械は、それぞれの機械が求められる機能要件に従い(それぞれの機械のあるべき姿に則り)、物理などの原理原則に叶う物でなければなりません。そしてこれらを実現する第一歩は、素性の良い(上記が考え尽くされた)基本設計の追い込みです。
皆さんが行われている、“ADAMS等を用いてメカの大まかなあたりを付ける解析”が、でたらめな仮説に基づいて行われる机上の空論的な追い込みで無い限り、立派な予測型設計をスタートさせていると私は理解致します。
さてご質問へのお答えですが、私どものこれまでの取組では、私が提唱致します設計思考展開を用いて、対象になる機械のあるべき姿を徹底的に追い込むことで、何を押さえるかを明確化し、あとは、その押さえるべき要件を論理的に検証できる雛形モデルを地道に作り込むことで、ご質問頂いた問題点を乗り越えております。
設計思考展開を用いて、対象になる機械のあるべき姿を徹底的に追い込みますと、一般にまず自分たちが分っていない(解明できていない)メカニズムが沢山出てきます。さらにメカニズムが解明できても、その押さえるべき数値(許容応力値を幾つにするか、衝突の衝撃値をどの値以下に抑えるか、振動の共振倍率をどの値以下に抑えるか等)をどのように取ればよいかが全く分らない項目が羅列されるはずです。
そしてこれらを、従来製品や試作品若しくは競合他社製品などからデータとして把握する作業と、CAEツール等を用いて論理的にその数値を把握する作業を地道に行い、上記した“機械のあるべき姿の展開表”をブラッシュアップしてゆくのです。
そうすれば、展開表の充実度が上がると比例して、問題予測の押さえるべきアイテムが増えることになり、最終的には全てを(理論的には)予測できるようになるわけです。
しかし現実的には、メカニズムを全て把握できるわけではなく、また様々な押さえるべき代用特性値も、おいそれとは把握できない場合が少なくありません。また技術革新が全くない機械ならいずれはゴールに到達できるでしょうが、技術革新が全くないような製品では商品の価値を持ちませんので、全てを雛形モデルで事前予測できるようになることは現実的には不可能です。
そしてこのどうしても不可能な部分は、“三人寄れば文殊の知恵”の手法を用いて私たちは凌いでおります。対象の機械に、経験やノウハウ更には知見を持ったメンバーが可能な限り多く集まり、上記した設計思考展開表を用い、同じ視点で論理的に私見を述べ合うと、大抵は当たらずとも遠からずの結論に至れる物です。
尚参考にまで、予測型設計におけるCAE技術の設計フェーズ毎での用い方を表1に示します。