CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

20年来CAEを使ってきたが製品開発にタイミングよく使えていない


■質問■

<前略>

先生が開業される以前にさんざんお世話になりました、弊社におけるCAE技術の活用ですが、一向に製品開発にタイミングよく使えておりません。

先生が開業されると時期を同じくして、私も設計部署を離れました。そして海外工場の立ち上げなどに没頭しておりましたために、20年前と一向に変わらない設計部署の現状に気づかずにおったのですが、本年度より技術統括の立場で設計部署を見るようになりまして、昔と一向に変わらない、いや昔よりもムダな試行錯誤を繰り返している設計部署に驚き、連休明けよりプロジェクトを発足させ、その対策に乗り出しております。

プロジェクトのメンバーには、20年前に私が先生からご指導頂いた、様々なポイントでの取組をベースに、対策案を練るように指示を出しているのですが、彼らからは「20年前とは道具が違うし技術も違う」と、色良い賛同をもらえず、なかなか進むべき方向が定まりません。

どのくらいCAEを取り巻く状況が変わったかと、私なりに調べてみたのですが、高価なUNIXのワークステーションでないと使うことができなかったCAEツールが、廉価なパソコンで十分利用できる様になったくらいの違いで、基本的には20年前と大きく変わっては居ないと言うところが私の見解です。

また先生はどのように考えておられるかを知るために、2000年に出版されている先生のCAE活用の御著書や、最近までの雑誌連載のバックナンバー、先生のホームページなどを拝見させて頂きましたが、先生のご見解も私と同様と理解いたしました。

そこで質問ですが、20年前に先生からご指導頂いたアプローチ方法が今現在でも有効か否か、もし一部修正すべき点があるならどこかをお教え頂けますと助かります。

いずれ先生にもお出ましいただこうと考えておりますが、まず手始めはプロジェクトに集めた若いメンバーに考えさせ、ある程度取組を行わせた上で、その良否評価や抜け誤りのご指摘も含め御指導頂こうと考えております。

<後略>

■回答■

20年前に私が**さんにご提案したCAEアプローチのポイントは、確か以下の内容だったと記憶します(開業以前の話なので資料が一切手元になく)。


@ CAEツールは、仮想試作・誘う試験を実現する道具として用いることができる必要がある
A CAEツールは、設計者が自分自身の設計判断ツールとして活用できなければならない
B CAEツールに使われてはだめだ、計算尺や電卓のように設計者自身が活用できなければならない
C 自分が担当する機械に対しては、極めて高度なCAEアプローチをも行える設計者でなければならない
D @〜Cをよりスムーズに実現するために、設計者の言葉で話せる良質なサポート体制が必要だ
E 他

 そしてご質問の「20年前に先生からご指導頂いたアプローチ方法が今現在でも有効か否か?」の回答は、“有効です”“変わっておりません”となります。

 確かにCAEツールも当時に比べたらだいぶ使いやすくなりました。それを動かす環境はご指摘の通り極めて高速化してかつ低コスト化されました。この面からは、当時とは許容値が変わってきております。

例えば20年前ですと、膨大な要素数のテトラ要素を用いた解析など、設計のツールとして用いるCAEの観点では不適だと言う指導を私は行っておりました。しかし今現在ですと10分程度で答えが返ってくる範囲までなら、それが膨大な個体要素を用いた、力ずくで処理する解析モデル出会っても目くじらをたてておりません。

でもこの許容値の変化と見える部分でも、実は当時でも10分程度以下で答えが帰ってくる解析モデルを求めていたわけで、決してこの部分の許容値が変わったわけではありません。

道具や環境の変化により一部物差しが変わった部分はあるかもしれませんが、@〜Dで求めているポイントは、当時でもCAE活用の最終理想型であり、現在でも変わりはありません。

一方20年前当時、明確な言葉として私の口から**さんに要求はしておらなかったと思いますが「フロントローディング設計」という、私がその開業以来世の中に提唱し続けている考え方があります。

構想設計段階からの徹底した問題予測とその潰し込みにより、一切の手戻り後戻りを排除した、最大効率且つ最高品質での製品(商品)開発を実現しようという考え方です。そしてこの「フロントローディング設計」を実現するための一つの強力な武器がCAEツールの駆使です。

**さんが問題視されておられる「20年来CAEを使ってきたが製品開発にタイミングよく使えていない」理由は、まさに貴社では「フロントローディング設計」ができていないからのはずです。このあたりから現在の取組を再考頂けると良い方向性が見つかるのではないかと思います。