CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

3次元CADやCAEを導入して暫く経つが効果を感じられない


■質問■

ご無沙汰をしております。

先生には10年前3次元CAD導入などに際して、何かとご尽力頂きましてありがとう御座いました。あの後先生はすっかり有名になられて、なかなか気安くご相談出来ない状態で悶々としておりましたが、弊社の状況がやむにやまれずの状態に陥っており、是非ご相談に乗って頂きたくお問い合わせをさせて頂きました。

しかもご相談申し上げる内容が、10年まえに先生に強く指摘された通りの状況に陥った末のご相談と言うことで、お問い合わせをするには誠に心苦しい内容でありまして、先生に無視されてもやむを得ないと思いつつも恥を忍んでのお問い合わせです。

あの後、実はあるCAD活用コンサルの方にお願いして活用手法を確立すべき色々な取り組みを行って参りました。その結果若手設計者達は、3Dを自分の手足のように操作して、何の滞りを起こすこともなく、設計モデル化ができるレベルに到達できました。

しかし彼らに、重要な開発設計を委ねようとしても、彼らのスキルでは到底顧客に渡せる製品は今のところ設計できることが出来ません。何度かトライさせたのですが、旨く行きません。その結果既に40歳を大幅に超えたベテラン勢が、相変わらず2次元CADを用いて、その殆どの開発を担っていると言っても過言では無い状況にあります。

そこで2点アドバイスをいただきたいのですが、なぜ3Dの操作が堪能な若手設計者達が短期間で設計が担えるレベルに上達できないのでしょうか。相当の費用を注ぎ込んで彼らを育成してきたと思っているのですが。またベテラン設計者達に強制的にでも3Dを使わせる手だてはありませんでしょうか。

■回答■

**さん、厳しい言い方ですが、本当にあなたは“蛙の面に水“な方ですね。確かに10年前私から強く指摘された、起こるであろう状況は覚えておられたようですが、それがどの様な理由で、なぜ起こるのかを、今おきている様な事態に陥るかを、様々な理由を挙げ指摘されたことを全く覚えていないようですね。

3次元CADは、2次元CADとは全く性格が違い代物です。2次元CADは、設計手法を変えずとも、基本的なオペレーションさえ覚えさえすれば役に立つ代物でした。なぜなら設計者が頭の中に描いた3次元形状を3面図に落として、図面上に表記するという行為は、ドラフターで行う設計行為と何ら変わることがありませんでしたから。ですから設計者達の2次元CADと言う道具を与え、後は各自が自助努力することで成果を出させると言うアプローチで、特に大きな問題を起こすこともなく、その導入成果を出すことが出来たわけです。

ところが3次元CADは全く違う代物です。最初から3次元で設計目的を発想して、3次元で具象化をすると言うアプローチを取ら無ければなりません。このアプローチが出来ないと殆どの3次元CADは、全く役に立たない代物になってしまいます。

ですから、ただ3次元CADと言う、当時としては未だ不完全な道具を設計者達に渡しただけで、設計部署の生産性が上がる等という妄想は、最初から描くべきことではなかった無かったはずですし、私から強く忠告されていたはずです。

さてご質問の、3次元CADの操作技術に熟練した若手設計者(設計者もどき)が、まともな設計が出来ないのはあたり前の話です。正確に言うと自分たちが扱う製品知識が貧弱な設計者もどきが、幾ら3次元CAD操作に堪能でも良い設計が出来るわけがないことは、一度でも“本当の設計”と言う仕事をした人間なら判るはずです。

さらに自分たちが扱う製品を基礎から支える工学的な知識や、論理的に設計の目的に対して課題解決が滞りなくできるなどの能力が、ご質問の設計フェーズを担う設計者達には必須要件として求められているはずです。これらのスキルがない設計者なら、まともな仕事が出来なくて当たり前と言っても過言ではないでしょう。

申し訳ありませんが、この原理原則的な話が理解できていない**さんに、正直3次元CADを始めとする設計支援ツールを駆使した設計部門の生産性向上を推進する仕事など勤まるとは思えないと言う疑問がわいて参ります。

もしかすると、貴社が陥っている状況は、**さんの考え方、商品開発、製品開発、設計と言う仕事に対する無理解が起因しているのではないでしょうか。

当時日経を始めとする雑誌に等に紹介されていた、デジタルエンジニアリングの話は、はっきり言って、自社内で効果のでない取り組みをメディアを通して自社上層部にアピールする目的を持った、“はったり話”が殆どだと私は理解しております。それらに踊らされた取り組みなど、全く無意味な取り組みと言えるでしょ。

メディアで紹介されている事例は、今現在でもこの傾向は余り変わっていないと言っても過言では無い状態にあります。これは、これまで色々雑誌に依頼されて寄稿記事を書いてきた、私だからわかる話と言っても過言ではない話です。詰まるところ、雑誌社は、広告料をかせげるスポンサーに都合の良い内容を歓迎すると言うことで、3次元CADがよく売れる、PDMツールがよく売れることに結びつく話を歓迎すると言うことです。

余談ですが、私が連載などを執筆している雑誌が変遷し、現在は日刊工業新聞社の「機械設計」だけに収束されている理由はここにあります。幸い機械設計誌は、どん欲にスポンサーのCADやCAEが売れることだけを求めている編集姿勢でないところが、私の連載が続いている理由があります。

と言うことで最初のご質問の、“なぜ3Dの操作が堪能な若手設計者達が短期間で設計が担えるレベルに上達できないのでしょうか”は、「3次元CADの操作と設計という行為は、全く別物であると言うことを理解しなさい」と言うお答えになります。

次のご質問の“ベテラン設計者達に強制的にでも3Dを使わせる手だてはありませんでしょうか。”は、意地悪なお答えですが、「なぜ彼らに3次元CADを無理矢理使わせる必要があるのですか?現在の状態でうまくできているなら、彼らに無理矢理3次元CADをつかわせる必要は無いでしょう」というお答えになってしまいます。

既に昔から皆さんに向けて私が申しております、3次元CAD等の道具を導入したからと言って設計品質があがったり、開発期間が短縮できる物では無いということ理解できなくても認識して頂いておると思います。

そしてこれらのツールは、その自分達が抱えている商品開発を効率よく行うに際して、それらを阻害する数々の悪い点を直してゆくための道具として活用することが、これら道具に課せられた使命と私は申して参りました。決して闇雲に「3次元CADを使いこなせ」等と申したことは無かったはずです。

**さん達が陥っている問題は、この部分に殆どが集約されるはずです。もう一度冷静にこの10年間の取り組みを振り返ってみてください。冷たい回答とお受けになるかもしれませんが、今後の皆さんの取り組むべき方向を真剣に考えたときに、**さん自身が目を覚まして頂く意味も含めてあえて冷たい回答をさせて頂いております。