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まず一つ目の原因は、一言で言ってしまえば、技術継承の失敗があげられるでしょう。しかしこの技術継承の失敗を突き詰めてゆくと極めて根深い問題がその後ろにあることが分かります。
例えば、他社に比べたらまだ採用条件に恵まれている貴社の場合には、それなりに優秀な人材は確保できていると考えます。しかし豊富に優秀な人材が供給された時代とは、その密度が大幅に違っているはずです。単純に考えてみても、若い年齢層の人口が10年前、20年前、さらには30年前に比べ大幅に減少していると言う事実は、当然の事として優秀な人材の絶対人数が減少しているということです。
一方若い人たちの理工系離れには危機的なものがあります。既に15年ほど前になりますが、親交のあった旧帝大の教授が嘆いておりました。「最近自分の研究室に後に残したい学生があまり入って来なくなった。」「以前だと、誰を残すかで悩んだのだが、最近は2年に一人いれば良い方だ」「他の研究室の先生達も同じ事を言っている」・・です。
それから2年ほどすると3Kという言葉がもてはやされるようになりました。理工学系の大学を卒業したのにもかかわらず、製造業に進む学生が珍しがられるようになった時代です。当時私が勤務していた情報処理会社では、会社見学の学生がビルの周りを何重にも取り囲んだ時代です。「田舎の工場で工員さんと同じ菜っ葉服を着て、独房のような独身寮に住み、餌としか思えない工場定食を食べる生活はたまらない」。
「都心のオフィスに、背広ネクタイで出勤し、美人の同僚が回りに大勢居る、きれいなオフィスで、きつくない仕事をし、夜は六本木のディスコにでも繰り出す生活がしたい」と言う具合です。
バブルが弾け、就職氷河期を迎えて既に10年経った昨今でも、なるべくなら製造業に進みたくない理工系の学生も少なくないようです。例年年明け頃から私の事務所にも卒業を間近に控え、未だ就職先の決まらない学生達から問い合わせのメールが頻繁に入ります(新卒は採らないと募集要項に明記しているにもかかわらずです)。相変わらず製造業は好みでは無いようです。就職浪人して、フリーター生活をしていても、「製造業に行くくらいなら今の生活の方が良い」と言っていると、私の友人は嘆いておりました。
この様な状況下ですので、製造業に進む学生の質は、当然低下の一歩をたどっております。先の絶対人口の減少と相俟って、急激にその質の低下を招いている訳です。
要するに、我が国の製造業にとっては、かつて優秀な人材が豊富に供給された1970年代とは、その人材供給という側面で見ると、著しくその質が低下していると言う事実があると言うことを承知いただきたい。
そして上で、原因として挙げた技術継承が巧くゆかない理由には、実はこの受け取る側の能力の問題が多分にあります。先輩達から受け取るだけキャパシティーのない若手設計者には、当然の事として限界があります。それが技術継承の断絶の極めて大きな原因の一つで、設計技術の低下を起こしている原因の一つでもあります。
もう一つ設計技術の低下には大きな原因があります。2次元CADの普及です。製図板で図面を描いていた時代は、線一本引くのにも、線一本消すのにも“考える”という行為が必要でした。考えなければ線は引けないし、考えずに消したら消してはいけない線まで消してしまうからです。ところが2次元CADでは、他の人が描いた図面から一部分を切り取って持ってくることが出来ます。彼方此方からこのようにしてかき集めてくると、それらしい図面ができあがります。まさに今現在多くの製造業で行われている設計パターンです。
このような切り張り行為を設計と勘違いして、思考することを止めてしまった設計者が伸びるわけがありません。私が行う商品開発部署の現状診断において、状態に陥っている設計部署が極めて多いと言う事実があります。
このような設計部署に対しては、生産技術や製造・検査・購買と言った後工程の方々から、次のような陰口が聞こえて居るはずです。
「張り付け(図面)して設計したつもりになっている」「設計の意図を感じない図面が多い」「線一本に命をかける設計者がいなくなった→早くしようとしてかえって時間がかかっている」「作図ミスが多すぎる」「とにかく図面を引いて試作品を作ってみる」「設計の意図を感じない図面が多い」「設計仕様は正しい→実現手段が未熟」「現状は“マネ”設計」
さて、このような問題を解決するために何をするかですが、私共が常々提唱しております“3つのイノベーション”の大きな目的の一つは、このような問題を解消することです。“3つのイノベーション”につきましては既にお聞き頂いておるかもしれませんし、私の著作物の各所で頻繁に触れておりますので、ここでは説明を致しませんが、今一度このような視点で、私の提唱する“3つのイノベーション”を読み直して頂けませんでしょうか?
尚、本HPでも順次この“3つのイノベーション”について説明を行ってゆこうと考えておりますのでご期待下さい。