企業としての総合力が無いと“良い設計”ができない?

質問


先生の講演中で、「常に“良い設計”を実現し続けるためには、企業としての総合力が必須だ」と言うお話がありました。
一方「これからを勝ち抜ける製造業必須条件は、(先生が提唱され続けている)3つのイノベーションの実現だ」ともおっしゃっていました。
恐らく3つのイノベーションを実現することにより、強力な企業体質、すなわち企業力を身につけた製造業が、コンスタントに“良い設計”続け、厳しい競争を勝ち抜いてゆくと理解したのですが、それで良いのでしょうか。
そしてこのような取り組みが何らかの形でできない製造業は、“良い設計”がいつまでたってもできずに淘汰されてゆくと考えてよろしいのでしょうか?




回答



基本的には、私が申している趣旨を的確にご理解頂けていると思います。しかし一部誤解頂いている部分があります。
世の中には、私共が提唱する3つのイノベーションに取り組まずとも、“企業としての総合力”をお持ちの製造業は存在致します。
 決して多くはありませんが、我が国にも存在致します。
絶えず前向きなチャレンジを忘れない製造業さん。
常に自分たちの現状を振り返り、徹底して無理無駄を改めている製造業さん。
具体名は挙げませんが皆さんよくご存じの勝ち組企業さんです。
企業力の差の具体例を挙げます。
 例えば、新製品に採用したい新構想の部品開発を、幾つかの大手部品メーカに打診したとします。
いずれもが、我が国有数の技術を誇る部品メーカだとします。
この様な場合に私の経験では、その新しい部品が巧く開発できそうな所と、だめそうな所が必ず出てきました。A社では巧く開発できそうなのだけれど、B社では作れそうもないという調子でです。
 しかしA社の設計者達が、技術的にB社の設計者達に比べ勝っているかというと、必ずしもそうではない場合が、少なからずありました。
巧く開発できるかどうかの分かれ目は、企業として持つ蓄積技術の中に、対象の技術が有るか否かがその差となっていた場合がほとんどでした。
当然その蓄積された技術が、誰にも(少なくとも主力設計者達)共有され、自在に活用できる態勢が何らかの形で確立できていたと言う但し書きは必要ですが。
 例えば標準化されている設計マニュアルの中に対象技術が有るか否か、代々伝えられた継承技術の中に対象技術が有るか否か、共有化等が行われている各種技術情報の中に対象技術が有るか否か等です。
そしてこのような企業力の差は、これら設計場面での差となって現れるだけでなく、物作り部分の品質管理能力や行程能力、加工・組立技術力等にもその能力差が現れてきます。
私が申す、“企業としての総合力”とは、その製品(商品)開発、特に設計に影響を与える、企業の持つこのような面を指して申しております。

ですから “良い設計”を実現するには、設計者個人の資質だけでは済まない場合がほとんどと言っても過言ではないでしょう。
その企業が持つ技術力の優劣の差が、極めて重要な要素になってくるのです。
 言い方を変えると、“良い設計”は、これらそれぞれの企業が持つ技術力と、常々私が述べている設計者個々が持つ資質とが、旨く相俟って初めて実現できるものだと言うことができるでしょう。
一方私が提唱する、“3つのイノベーション”は、どちらかと言えば十分に企業力をまだ待っていない製造業を、早急に勝ち組企業さん達の仲間入りできる企業力に、促成栽培する取り組みと言うことができます。ですからご質問の内容は、一部の、既にある水準以上の“企業力”をお持ちの製造業さんを除き、それ以外の製造業の皆さんにとっては、おっしゃられる趣旨と理解されて宜しいと思います。