商品設計者が知識として持つべき金型知識の範囲


「これからの時代を生き抜く商品設計者は、金型設計に関する知識をしっかり持っておかなければならない」などと各所で私は述べている。
そうすると多くの設計者達は次のような反論をする。「金型屋さんの持っているノウハウを全てマスターするなど無理だ、それ以外に商品設計者としてマスターしなければならない話が山ほどある!」
しかしご安心いただきたい、私も「金型屋さんの持っているノウハウを全てマスター」しると言っているわけではない。それは、商品設計者諸君がマスターしなければならない金型や射出成形回りの技術は、金型屋さんに比べて格段に少なくて良いと思っているからだ。
なぜなら、商品設計者は、金型設計の対象になる製品(部品)が、要求される品質機能要件を、完全に理解しているからだ。また商品設計者は、対象製品の形状や材料等を、要求された仕様の中で、自在にいじる権限を持っているからだ。
ここが金型屋さん達と大きくちがうところである。金型屋さんは、とにかく図面に示された通りの成形品が、安定して成形出来る金型を作り上げなければならない。製品の形状を少し弄って欲しくても、なかなか要求し辛い所がある。要求したい項目が膨大になると、悲しい性で自己規制が働く金型屋さんが多いはずだ。とにかく図面通りの寸法や寸法公差で、各所に無理をしながら金型を仕上げることになる。無理をすると各所に歪みがでる。
実は金型設計や射出成形の"ノウハウ"の多くは、この歪みを如何に逃げるかの技であると私は理解している。その根拠は、両手に余る金型メーカや成形メーカの、現状診断やコンサルテーション通じて得られたデータからだ。
要するに、商品設計者はこの"歪みを逃げる技"はそれほどマスターする必要は無いと言うことだ。最初から無理のない製品形状にしてしまえば良いわけだ。これが商品設計者なら出来る、商品設計者でないと出来ない特権だからである。
このあたりに関する私の連載が「機械設計」(日刊工業新聞社)12月号から始まりました。