設計初期段階でのCAE活用を試みる場合、導入コストと効果の関係は?

質問

CAEを、設計初期の構想設計段階から採用することは、導入コストと導入効果(表に現れにくい)との兼ね合いにより、反対する人が多く、なかなか難しい現状である。
この辺りを巧く進める方法は?

回答

ご記入いただきました現在お手持ちのCAEプロダクトから、判断させていただくそのカバー範囲は、既に十分な道具を備えておられると言えるでしょう。これだけ道具をお持ちでしたら、設計初期における構想段階でのCAE活用は、既に相当のことが出来ると思いますし、出来ておらなければなりません。  
 しかしこの様な活用が旨くいっていないとするならば、設計初期、構想設計段階でのその活用方法に恐らく問題があると思います。道具を思い切った割り切りで使う方法やそのためのモデル化方法、さらには解析アプローチ方法が分からなかったり、これらの妥当性が評価出来ておらず、安心して使えない等の問題が山積しているのではないかと思います。更には、これらの道具を使いこなせる設計者を育てたり、設計初期段階でそのようなアプローチを行う文化を築くことも重要な話になって参ります。
 貴社では、既に道具をお持ちです。次に行わなければならないのは、設計初期、構想設計段階で、CAEを設計判断の道具として使う文化を育むことであり、そしてそれを担う設計者を育てることが急務だと言えるでしょう。
 この様な取り組みは、トップダウン的に設計者達に、ただ闇雲に「使え」「勉強しろ」と言っても、おいそれとは巧く行きません。地道な成果の積み重ねが必要になります。そして誰かが、その地道な積み重ねを経て大きな実績を上げると、他はいやでも付いて来るものです。
 またこの取り組みにあたり、当面必要となるCAEツールのライセンス数は、最小限で済むはずです。ですから既に道具をお持ちの今、この取り組みへ踏み切るにあたりネックになるのは、それに費やす工数だけの問題です。要するに、誰かがやる気になれば、その工数を捻出しさえ出来れば、取りかかれる事のように見受けられます。そしてその工数捻出をトップに承認させる手としては、次のポイントを突くことが有効でしょう。
 一般に従来型の製品開発においては、設計初期の構想設計段階で各所に発生する設計的なチェック項目での確認を、先送りする傾向があります。「強度的に少し心配だが、とりあえずは横睨みだけしておき、試作段階で壊れたらその対策を考えよう」「共振の問題がもしかしたらあるかも知れないが、アッセンブリ状態での固有振動数など面倒くさくて確認していられない。試作段階で問題が起きたら考えよう」云々です。
そしてこの様な問題先送りを原因とする試作トラブルを頻発させ、その開発期間短縮が一向に進まない状況を生みだしている製造業は少なくはありません。何処の製造業も同じように抱える重大な問題点です。
まさに突くべきポイントはここです。問題先送りを原因としてどれだけのロスが現在生まれているかを定量的に把握する訳です。私どものこれまでの経験では、何処の製造業でも驚くほどのロスが算出され「直ぐにでも改善しろ」と言う話に結び付きました。
 ただし、このような方向に巧く舵取りが出来た場合でも、更に注意しなければならないポイントがあります。特にこのポイントは、トップに十分理解しておいて貰わなければ、取組そのものを失敗させる事態が起こる可能性があります。
 設計初期段階、構想設計段階でのCAE活用は、まさに仮想試作・仮想試験そのものです(これだけが仮想試作・仮想試験ではないが)。対象の機械のメカニズムをモデル化し、その機械に働く物理現象をモデルとして与え、そ結果を読んで対象の機械に起こるであろう物理的な挙動を予測する作業な訳です。
 このためには、そのモデル化方法や結果評価方法の妥当性を、従来製品等に対する同様なアプローチを通じて、前もって確認しておく必要があるわけです。この裏付けが無い限り、CAE活用による仮想試作・仮想試験は、「ただのメクラ撃ち」「単なるでたらめ」と言っても過言ではないでしょう。
 そしてこのモデル化方法やアプローチ方法が確立出来るまでは、アプローチへの試行錯誤や妥当性評価などが繰り返し必要になります。そしてこれらは、その取組を行う設計者達にとって極めて重い負荷となりのし掛かって参ります。このため、この様な取り組みの初期段階では、これらに費やす分の大幅な工数増は、見込んでおかなければならないと言うことです。
 しかしこの期間はCAE活用の効果は全くないのかというと否です。これらのノウハウを確立するまでの間でも、問題の先送りをしなかった効果が、大きく効いて来るのが一般的です。このため、開発全体を通しての開発期間増や開発工数増が大幅な数字で現れることはまれです。
 最近私共の手がけた事例では、始めてのチャレンジで開発期間1/7ダウン、工数1/5ダウンを果たし、2度目のチャレンジでは開発期間3/5ダウン、開発工数1/2ダウンを実現した例もありますので頑張ってチャレンジしてみてください。

      
以上