設計者が解析技術者を目指すと言う方法・方向には問題があるか?

質問

 本日のお話は解析技術者が設計に入り込むと言う観点が中心でしたが、設計者が解析技術者を目指すと言う方法・方向は問題がありますか?
効率が悪いですか?注意点はありますか?

回答

 演題にありますように講演の主旨は「CAEによる設計の改革術」です。すなわち生産性の高い商品開発部署、高い設計技術を持ち高い設計品質を生み出せる商品開発部署を築くために、如何にに解析技術を活用するのかと言うことです。
このために設計者自身が活用する解析技術、実際の設計に入り込んで活躍する解析技術者等の例が中心になりました。  お問い合わせの「設計者が解析技術者を目指す方法・方向に問題は?」と言うお問いかけですが、まずその目的は何でしょう。
 設計の道具として、設計者が解析技術を物にすると言うことですか?
 この場合は、言葉の文かも知れませんが、私共は「設計者が解析技術者に育った」とは言わず、「解析技術を駆使できる設計者に育った」と言います。そしてそのための集中教育の例などをご紹介したしました。
私の著書「CAEによる設計の改革術」の4章17項で、「中核設計技術者に対する集中教育中の試み」と題してその具体的方法に言及しております。
 それとも、いま現在設計をしている人が、受託解析的に(設計者などから依頼を受け高度の解析を行う)、解析業務を受け持つ解析技術者に社内転職を図ろうと言うことでしょうか。この様なケースについては、この講演では確かに触れておりません。

 前者のケースは、設計者達が前向きに自分の設計技術向上のため、解析技術を取得しようと言う試みであり、その方法は例に挙げた以外にも様々な方法があります。
しかし何れにも言えることですが、その設計者達が解析技術を取得しようとする目的は、あくまでも自分の問題予測や設計判断の技術向上を目的としており、未来永劫設計者であり続けることを前提にした技術向上努力の一環と言えるでしょう。そしてこの様な視点での取り組み方、注意事項は講演の随所で語っていると思います。(半分はこの話だったと思います)

 しかし、お問い合わせの主旨が後者だった場合の「方法・方向は問題がありますか?」「効率が悪いですか?」「注意点はありますか?」と言うことですと、正直お答えに困ってしまいます。
 もし自分自身が設計者としての創造性に欠け、設計者としての道が将来開ける見込みがないと悟った上での、この様な将来展望でしたら、決して効率は悪くはありません。少なくとも、設計者としての経験は、数値解法やプログラミングしか学んでこなかった数学屋さんよりは、実際の機械のメカニズムを把握したり、機械に働く物理現象を把握したりするためには役に立ちますし、解析の結果を設計のどの様な用途に用いるかが解かりますので。(これが解らないようなレベルでしたら、設計者としては当然失格ですし、解析技術者としても失格です。
ここでお答えする以前の問題と言う話になりますので、この様な低レベルのケースではないとして以下のお答えを続けます。)
 ただ問題は、解析技術者が行う受託解析は、あくまでも設計行為の一部分を支援する行為にしか過ぎません。それが設計の初期段階での的確なモデル化と迅速な結果を必要とされる場面で、解析処理を設計者の都合に合わせ、素直に行う事が出来ますか?
このポイントが問題になると思います。私の知る限り、かつての設計者としてのキャリアやプライドがこの様な場面で災いすることが多々あると思いますので。
 もう一つ問題があり、ラインの開発業務を離れ、商品開発の結果に対して責任を負わされない解析技術者は、一般に"納期"、"コスト"の概念が希薄になります。プライドの高い技術者の習性として、とことん美しい、とことん精度を追求した解析モデルを競いがちになります。
この部分も設計と遊離してしまう、危険性が大きく生じます。  20年前、多くの製造業で技術電算部署が立ち上がりました。その中の半分以上は元設計者で、自分の設計者としての限界を悟り、FEM等の新しい技術に望みをかけた人たちが中心となっておりました。そしてバブル崩壊後、全てとは言いませんが、その多くが"役に立たない解析部署"とやり玉に挙がり、リストラ対象とされた事実があります。
注意点は、この様な失敗(多くの製造業で陥った失敗)を二度と繰り返さないことです。
 ご質問の内容が色々の捉え方が出来、必ずしも的確なお答えになっておらないかも知れません。もし具体的な状況・事情などをお示し頂ければ、的確なお答えが叶うと思います。

以上