設計の生産性向上を妨げる"モグラ叩き""手戻り"

質問

有泉さんの言う"モグラ叩き""手戻り"を詳しく説明下さい

回答

一般に試作出図が終わり、試作品作りやその性能&品質確認作業が始まった後、設計不良を原因として、設計変更行為を余儀なくされる現象は一般に"手戻り"若しくは"後もどり"等と呼ばれます。この設計変更行為は、軽微なものでは現場で直接部品を修正・補強などを行う"現合"などと呼ばれる行為から、数日〜数ヶ月かけた設計変更・部品再手配を必要とする、重大な不具合もあります。
 そしてこの設計不具合を、原因別に分析すると、一般的にミスを原因とする設計不具合から、検討不足、検討先送りを原因とする物まで千差万別の原因を抱えております。さらに、この設計不具合を対策難易度毎に分類すると、1回の設計変更でたちどころに問題が解決する、"寸法ミス"、"干渉チェック漏れ"、などの製品形状上の検討行為を手抜きした結果起こる設計不良や、単純な梁計算等でも判るような強度や変形などの性能不足を原因とした設計不良がまず挙げられます。
 これに対して、例えば機械構造全体の振動特性の悪さからから来る、振動の問題。機械構造全体における、放熱バランスの問題などその機械や機械構造の基本設計に起因する問題を、その原因に持つ設計不良があります。試作段階で振動を押さえようと、彼方此方に手を打つのだけれど、まるで"モグラ叩き"を行っているように、"あっちを押さえるとこっちに現れ"を延々と繰り返さなければならない種類の設計不具合です。
 今日ほど、機械構造全体の物理特性追い込みようが無かった時代には、どこの設計現場でも見られた、最も難しい設計不具合です。そして、この問題を、要領よく押さえ込む(必ずしも本質的な解決ではない)事の出来る設計者が、優秀な設計者として評価されてきたと思います。
 一般に、これらの設計不具合により何らかの設計変更行為を行う行為を"手戻り"と総称されるわけですが、私たちはその原因にまで踏み込んだ設計改革を行うため、後者の例に挙げたような重大な設計不具合を"モグラ叩き"とあえて別な呼び方をしております。
 そして、この"モグラ叩き"を起こす最大の原因は、設計上流段階での"問題の先送り"、"設計の先送り"の"手抜き設計"です。以下に、この"問題の先送り"、"設計の先送り"の"手抜き設計"に対してCAEがどの様に役立つかの一文を以下に添付いたします。

「CAEは設計の品質と設計者の生産性を画期的に上げる」
CAEの活用術を自分のものにできた設計者は、CAEを自分自身の製品開発業務の中において、"良く切れるハサミ"として駆使できるようになる。構想設計段階から、"素性の良い製品の設計"を目指した活用だ。そして、当然のこととして、よりよい設計の道具としての活用ができる力を付けてくる。
 そしてこの道具が使えるようになると、構想設計段階において"素性の良い基本設計"や、詳細設計段階での"的確な問題予測"、試作出図段階での"前もっての対処法考案"(併行試作)、試験段階での"トラブルシューティング"などに、フルに活用できるようになる。その結果は、彼らがこれまで費やしてきた、"無駄な時間"を大幅に削減させ、より沢山の創造的な仕事に、彼らが取り組める環境が生まれてくる。
 何故ならこの"無駄な時間"が起こる原因は、そのほとんどが設計初期段階における、検討漏れや、手抜き(意図しない)等だ。言い方を変えると、"問題の先送り"、"設計の先送"りの"手抜き設計だ"。筆者が大手製造業を中心に度々行う、現状診断などの結果でも、この辺りが大きな問題としてレポートされる場合が多い。
 優秀と言われる設計者達でさえ、そのKKD(感と経験と度胸)手法のためか、この様な問題を多発させている(KKDは優秀な設計者の道具として用いられると究極の設計技術になりうるが、やはり失敗を犯す危険性を絶えず孕んでいる)。そして、本来なら一段落するはずの試作出図直後から、あたふたと飛び回り、挙げ句の果ては、不完全燃焼状態での量産出図をいつも余儀なくされている。何処の製造業でも、その呼び方こそ違え、"先送り"が起こした問題解決のため、いつも忙しい思いをしているのが、その実状であろう。
 ところがCAEは、巧く使ってやるとこの"先送り"を大幅に減らすことが出来る。それは、物を作らない"仮想試作""仮想試験"により徹底して、起こるであろう問題点を予測し、その対策を前もって打つからだ。確かにこの方法を取ると、設計の初期段階では、今までになかった、膨大な工数の増加も必要だ。しかし、製品開発全体の工数でカウントすると、その増加工数を補っても、大きく余りある、試作出図後の生産性向上が達成できるメリットがある。
 その効果の具体例を、図1に示すが、本例は筆者がお手伝いしている、大手電気・情報機器系製造業での、4年前の成果である。なお図1は設計関係者だけの工数でカウントしているが、試作出図後の工数低減には、その手直しや再試作・再試験が大幅に減る分、加工組立工数、試験工数などの大幅な低減がある。それぞれ具体的な数字は筆者の守秘義務のため勘弁いただきたいが、設計工数低減が50%、そのほかの工数低減も20〜30%の大幅工数低減を実現している。当然その開発期間も大幅に減少し、現在では期間半減を実現している

図1 CAE導入・活用による設計工数の変化