優秀な設計者だけにCAE教育が可能か

質問 優秀な設計者だけに教育するのは正論ですが(当社でも自らシミュレーション出来るのは、かなり優秀な人達です)実際には難しいのではないでしょうか(実例があるのでしょうか)?
回答

我が国の製造業の多くは、表向きは横並び的な方法で社員教育や管理を行って来ました。バブル崩壊後実力主義、個人の能力重視などの動きを各所で見かけますが、それも一般社員から既に選別の終わった部課長などの管理職に対しての施策であることが一般的です。
先日のセミナーで私が皆様に訴えた"優秀な設計者だけに・・・"の話を、何の工夫もなく仮に行ったとしたら、自分の立場が悪くなるであろう、劣っている設計者たちの反対や妨害にあって、たちどころに頓挫するであろう事は間違いありません。ですから講演の中で"工夫"と言う言葉が頻繁にあったと思います。
工夫の方法は、それぞれの企業文化に合わせて考え出す必要はありますが、以下にそのポイントを数点挙げます。

・シミュレーション技術を使いこなす事の出来る人材だけが、これからの厳しい企業の製品開発活動を支えることの出来る人材であることを製品開発部署のトップや経営者に十分に理解させる。コンピュータツールをフルに活用した仮想試作・試験による製品開発期間の大幅短縮、設計品質の大幅向上を狙うと・・・コンカレント設計構成メンバーは、優秀な設計者でなければ成立しない
・・・BPRを行えば必然的にコンピュータツールをフルに活用した仮想試作/試験やコンカレント設計に必ず行き着く)
・教育は設計者全員に対し、公平に浅く始める。意図的操作も含め製品開発部署/設計部署の将来を託す人材に徐々に絞り込んで行く。
注)ここで言う"選別者"は選択された人を指す
1日程度の入門教育は設計者全員に強制で教育を行う。
中級コースでは希望者の名目を取る。もし不希望の選別者がいた場合業務命令で強制教育、3日程度。
上級コースは中級コースの成績及び上司推薦の建前を取り意図的に選別者に絞り込む
解析専任者向け人材が中級の成績上位に必ず入る、この者が上級コースへ進むことは妨げない
・選別された若い設計者には目的をしばらくは伝えない。
・選別者の選別基準は将来の製品開発部署/設計部署を託せる人材か否か。(設計/工学センスが全てであり、コンピュータに強い、数値計算に強いを理由にした選別は不可。くれぐれも"コンピュータお宅"を選んではならない)
・選別者の中には、強制に近いシミュレーション教育に逆らう者も少なくは無い、彼らにはシミュレーション技術を使いこなす事の出来る人材だけが、これからの厳しい企業の製品開発活動を支えることの出来る人材であることを個別に説得し、理解させる。
・etc
建前は以上のようになりますが、多くの製造業で必ずしも"優秀な設計者"="設計のマネージャ"の図式が成り立たず、またある年代になったとき"優秀な設計者"であり続けようとすると浮かばれない製造業も少なくはありません。このため、これらの施策実行にはトップの完全な理解と強い意志が必須になってきます。脇から枝葉末節な苦情を言われたり、末端から状況を説明していない故の造反的発言がでたりしただけで、腰砕けになるような施策であるなら最初から行わない方が賢明です。
私がかかわった案件でも、施策には決して誤りはなかったと思うが(ほぼ似た企業文化の他社ではうまく行っている方法で)、役員昇進を直前にした部門の長が、周りからの雑音で、施策の彼方此方を場当たり的に歪め、最後には腰砕けになり、施策を担当した課長が詰め腹を切らされてしまった例はあります。

実例があるのでしょうか?の問いに対しては"YES"ですが、私共がお手伝いした場合、上記ポイントに従い、その施策の計画実行を行って戴いておりますので、この施策の具体例を口外している私共のお客様は無いと思います。(総論的に、それとなく外部にしゃべっている例は承知しているが)
ちなみに私共のお客様の多くが、何らかの形でこのような施策にチャレンジ戴いており、早いところでは、その定量的効果が計測されるまでに至っております。また昨今その成果の一部がCAE導入効果などの形で発表されている例もあります。