3次元CAD活用における導入検討・活用体制・注意事項
1.3次元CAD導入、運用のポイント
"3次元CADの導入を目的にするな"
その導入のプロセス
既に3次元CADを導入し、ある期間が経ったがその導入効果が得られていないとの判断の下、私共にコンサルティングや活用状況の診断を求めて来たケースが昨年も数件あった。
その診断の中で「3次元CAD導入の目的は!」と尋ねたとき、設計工数の低減や設計品質の向上をまず第一に挙げる例が多い。
その説明としては、手戻りの少ない設計検討、干渉チェックミスの削減などが補足される。さらに導入年度からの期待効果として数%の工数削減予測の計画が示される。
「その導入体制は!」の問に対し、
「若手設計者全員に対して3日間の集合教育を行った」
「パイロットプロジェクトのメンバーを各課から若手中心に出してもらい、兼務で有効活用の研究に入っている」等の答えが返って来た。
表面的にはこれらの目的も決して誤りではなく、3次元CADに期待出来る大きな効果の部分であろう。
また展開方法も全てが誤りとは言えない。しかし、その導入の動機は単なる新しい設計道具の導入にしかとらえておらず、まさに10年前2次元CADを導入したときと同じ感覚が彼らの言葉の端々から感じ取られた。だからその導入にあたっての検討は、目的の示されていない設計者たちが、使いやすいと判断したCADが選ばれていたり、その活用方法は、設計者が考えなさいの態勢であったり、自分たちの製品開発に対しての具体的活用方法例や、その取得計画等も全くが無い状態でもあった。
また導入以降の啓蒙活動や、活用支援でも設計側の要求に応える形だけでの極めて消極的な対応であった。これは、世の中のブーム?や一部の技術情報誌に煽られ、3次元CAD導入が目的となってしまった典型的な例である。これでは、当然はうまく行くはずは無い。
現状を漏れ無く冷静に分析し明確な方針を
3次元CADは単なる道具である。またそれを最も生かすであろうコンカレント設計は、設計業務の効率を上げる単なる設計手法の一つである。また元々この目的で3次元CADを生み出した設計の自動化も、設計業務の効率を上げる一手段にしか過ぎない。(ここで言う"設計業務の効率"とは製品開発のリードタイム短縮、開発コスト削減、設計品質の向上、等を指す)
ともすれば、この一番重要な設計業務の効率を上げる部分を忘れ、その手段や、手法や、道具の選択を目的としがちな所に3次元CAD導入の難しさがある。
2.3次元CAD導入に当たっての注意事項
3次元CADは間違いなく役に立つ
コンカレント設計実現を目指す製造業の多くは、3次元CADをその基幹の道具と据えなければ、その実現は難しいだろう。コンカレント設計以外にも3次元CADのメリットはたくさんある。詳細は愚著「3次元CADによる設計の改革術」参照下さい。
米国製造業とは文化が違うことを忘れずに
米国製造業の設計部署と我が国の設計部署とではここ30年来の文化が違う。米国では、その責任は細分化されており、マニュアルに従って設計を進めていれば、それ以外の責任は問われない体質、シーケンシャル設計が基本、TQCは無し。
我が国は、部・課単位での共同運命体、日本流コンカレント設計が基本、TQCの強い文化有り。このような背景を基に、米国のコンカレント化や3次元CAD化は進められておりまたその3次元CADは米国の事情に合わせて作られている。ここを十分理解した上での導入検討・実用化施策が必須。
コンカレント設計は元々は日本の製品開発手法
先にも十分述べたが、コンカレント設計は元々は我が国の多くの製造業で行われていた製品開発手法の焼き直しである。かつて自社がTQCで何を行って来て、どのような蓄積が有り、今何が問題なのか を十分に把握したうえでのコンカレント手法導入が必要。
海外の成功事例に惑わされるな
直接、海外の製造業(CAD推進者以外)や私共の同業者に聞く話と、CAD販売会社が盛んに宣伝している話では、同じ案件でもだいぶ話が異なる場合が多くある。我が国に比べ製品開発の進め方では一時期(?)だいぶ遅れていた米国製造業には、元々この手のツールや手法が入り易い下地があった。
これらを踏まえると、海外の成功事例なる物は割り引いて聞いた方が良さそうだ。
国内の成功事例の裏をよく読め
国内の事情についても、設計者側から見た状況と、公に発表されている事柄が(一部技術情報誌やCAD販売会社により)、嘘は無いのだが本当に旨く行っているかは首をかしげるケースがある。逆に着実に目標に近づいているが外に対しては全く静かな所もある。
少なくとも公表されている内容の行間をしっかり読む必要が有る。
本当に自分たちが必要とする物に的を絞れ
コンカレント設計導入や3次元CAD導入に"たら・れば"論は不要だ。
現在自分たちの行っている仕事の進め方をその根底から洗い直し、現時点で考えられる技術・手法・道具等を用いる事によって、可能となる最適な仕事の進め方を編み出す事がすべての始まりである。その結果としてコンカレント設計導入や3次元CAD導入があるのなら良いが、始めに"これらありき"はナンセンスである。
また、この作業は同じ文化に育った企業内のメンバーだけでは、漏れや方向違いを犯す危険性を孕んでいる。そこで全体を冷静に見れ、的確に判断出来るコンサルタントを加えれば良いのだが、設計業務が分からない、コンピュータ技術が分からない、CAD・PDM等アプリケーション技術が分からないコンサルタントや学校の先生達では不適任であり、足でまといになる。
余談ですが、私共は、保有技術・経験・実績何れからも、我が国で唯一これに応えられコンサルタントであると自負しております。
購入業者とは長い付き合いになる本当に信頼できる業者を選べ
3次元CADは2次元CADに比べ導入後の立ち上げ作業や活用段階で、設計者に対して親密で的確かつ迅速な支援が必要になる。自社内でこのような人材を育てられる大手製造業は余り気にしなくても良いのだが、ほとんどはCADの購入元にその支援を仰がざるを得ない。このため3次元CADをこれから導入しようとする場合、この辺りの信頼性を厳しく評価する必要が有る。
また販売会社の中には、売れるまでは又は売上が続く間は一生懸命対応するが、しばらく売上が見込めないとなると、手の平を返したように疎遠になる所も少なくない。これらをも見極めるためには単に導入検討時点での対応だけではなく、過去10年程度逆上っての、その販売会社の評判も判断の要素にすべきである。
このような販売会社が選べない3次元CADを最適なものとして選ばざるを得ない場合もある。このような場合は私共を活用いただくのも一計である.