3次元CAD/CAMとコンカレントエンジニリング


コンカレント設計に必要となる高い設計者の資質

Concurrent Design ofProducts and Processesで語られるコンカレントエンジニアリングでもそうだが、この仕組みを実現する構成メンバーは、それぞれの担当部分において極めて高い設計者としての資質を要求されている.コンカレントエンジニアリングは製品企画、想設計から生産技術、サービス技術までに至るあらゆる部門のエキスパートが、それぞれ自分の担当する部分のあらゆるポイントを完全に把握し、起こるであろう問題点を予測し、それらを基に前工程や後工程の担当設計者との緊密な連絡を取り合いながら,お互いの作業が重複したり,やり直しを必要とするような配慮不足"設計の無駄"を極力無くした製品開発プロセスの実現を目指している。
このためには各所を担う設計者は、少なくとも自分の担当分は、あらゆる配慮を含めパーフェクトにこなせるスキルが必須となる。さらに前/後工程の設計者や他のチームメンバーから発信される諸々のインフォーションやフィードバックを的確に理解したうえ、自分が担当する部分に展開を行い、その問題点を探り出せる、コミュニケーション能力や周辺技術に関する十分な知識及び自己完結能力等も必要とされる。当然、自分からの発信をチームメンバーに的確に理解させるプレゼンテーション能力やコミュニケーション能力も必要である。極端な話、コンカレントエンジニアリングは一人でも不適格な設計者が分担する部分があると、その仕組みはうまく行かない危険性を孕んでいる。この辺りの回避手段等については、別途本ホームページでも徐々に紹介して行くが、コンカレントエンジニアリングを実現するためには、この辺りが非常に重要なポイントになることに留意いただきたい。

優秀な設計者をより効率よく活躍させる道具は

コンカレント設計を実現するためには優秀な設計者が必須である、しかしのこの優秀な設計者は優秀が故に極めて多忙でもあるのも一般的である。資質のない設計者に教育をして、コンカレント設計を担えるスキルを持つ設計者に育てることは極めて難しい。しかし場合によっては、優秀な設計者に複数のプロジェクトを掛け持ちさせることは、その態勢の取り方次第では可能である。優秀な設計者の意のままに動く優秀なアシスタントと、優秀な設計支援ツールが有れば、それらの活用によって、優秀な設計者の生産性を数倍から 数十倍まで上げることが可能である。筆者のコンサルテーションにおいては、この考え方に基づく方法で、既に数例の成果を出しつつある。
この優秀な設計者に生産性向上をもたらす設計支援ツールとして挙げられる物には、CAEを中心とする各種シミュレーションツールやMicrosoft Office等に代表されるEOAツール等が有る。これらのツールを効果的に用いるには、シミュレーションモデルのモデル化を速やかに行うための形状ベースとして、また各種検討、報告書資料作成やプレゼンテーション資料の作成時(OLEで張り付け等)、より確実な設計意図伝達を行うために、誰でも同じ認識で設計形状の理解が可能な3次元CADは必須となってくる。

チーム設計に必要なコミュニケーションツール

コンカレント設計を効果的に遂行するに当たって最も重要なことは、設計フェーズ毎の各設計者たちの意図を、チーム全員が共通の物差しで同一の認識をする必要が有る。各担当者が同じ図面を見ながら、それぞれが好き勝手な認識をしていたのでは、効果的なコンカレント設計は不可能である。共通の認識に立った問題探索、問題指摘、ディスカッション、フィードバックでなくしてコンカレント設計は成り立たない。しかし、従来の3面図による2次元図面では、それを見る人により、図面を見るか(単なる線図として=何か線がたくさん引いてある紙)、図面を読むか(設計意図も含め、図面に描かれる形状全てを把握理解する)の両極端から、その間までにばらつく。
それぞれの2次元図面を理解する能力により、その理解度は大きく異なり、誰がどのくらい理解できているをが計れないところにも問題があった。3次元CADの便利な所は、少なくともコンピュータ画面上に実体と殆ど同じ形状を描き出せるため、図面読解力の差による設計意図や形状の理解不足が起こり得ないメリットで有る。このためコンカレント設計(チーム設計)のコミュニケーションツールとして3次元CADを用いることは極めて有効である。

重複した単純作業排除による効率のよいチーム設計

また、3次元CADのメリットに、その形状表現が3次元の実体形状で表されることがある。2次元CADの時代、3面図に描かれた3次元形状の部品を有限要素法解析のための3次元解析モデル化するために、2次元図面を見ながら3次元の線図やソリッド形状を定義し、それを元にメッシュモデルを生成する必要が有った。3次元のプレス金型や射出成形金型作成時も、改めて3次元形状の定義が必要であった。
これらに限らず製品企画から、基本設計、全体計画〜量産設計、設備/治工具設計〜サービス技術までの全工程で、同じ部位の情報を幾度となく描き直すのがこれまでの設計の常であり、その辺りの合理化を模索した製造業は多かったが、本質的改善まで至った所は皆無であったと思われる。3次元CADを用いた場合、少なくとも前工程で、誰かがその設計意図を3次元形状化してやれば、その後に続く工程の設計者たちは、その形状を基にそれぞれの検討に取り掛かればよい訳で、少なくとも前工程までに固まった形状を描き直す 必要はなくなる。
さらに昨今の3次元CADには、それぞれの部品に形状的情報だけではなく、設計意図、製造情報シミュレーション情報等 付加することが徐々に可能となって来ており(製品モデル)、同一の製品データーの上でチームメンバーが、それぞれ自分の担当する部位や工程を協力し合いながら、同時進行で設計を進めることが可能になって来た。
CAD/CAMベンダーの言う"3次元CADはコンカレント設計を実現するツール"の謳い文句 が、ついに絵空事でなくなって来たと言える。3次元CADを用いたコンカレント設計へのチャレンジは、多くの製造業で行われており、筆者自身も数例を手掛けている。