我が国の製造業におけるCAE活用状況
CAEは本来、製品開発部署における各種 技術的判断(Engineerring Decision)に対し、コンピュータを用いた各種支援ツールを駆使し、より合理的に、より高い生産性をもって製品開発を行うことを目的とする一
つの考え方である。
それらを構成するツールとして ソリッドモデラー、有限要素法プログラム等が提唱され SDRCを中心として多くの技術計算系ソフト開発元やコンサルティング会社、CADベンダーがそれぞれ、これこそが CAEを実現するツールであると競って"新しいCAEツールなるもの"を誕生させ、改善機能強化を加えて来た。
CAD,CIMを非常に 高価なコンピュータ拡販に結び付けたメインフレーム系コンピュータベンダーは、3匹目の柳の下の鰌を目論み、CAEツールを使うことにより、理想的製品開発環境が構築出来るかのごとく絵に描いた餅を多くの製造業に語りかけた。CADの成果に気を良くした多くの製造業は、導入部署主導で的確なユーザーニーズの調査、把握を行う事なくCAEの導入を行なってしまい結果としてベンダーの絵に描いた餅に乗せられてしまった製造業を多く見て来た。(物理的には膨大な時間をかけて調査、検討を行い そのうえで導入に踏み切った製造業が多かったのだが、その調査検討段階でCAEの導入目的とその効果が十分理解出来ておらずユーザーニーズとは全く掛け離れたツールの導入になってしまった例。
当初の選択や狙いはおおむね妥当であったのに拘わらず、その活用への展開を誤ってしまったため 宝の持ち腐れになってしまった例等、結果としてはあまり旨く使われていない例を多く見かける。)
私は6年前独立開業するまで、CAEのソフトウエアーを提供する側にあった。日常の私に課せられた職務は、売る側の利益追求であり、そのためには新規顧客開拓に全力を注がなければならない現実があった。
しかしCAEツールを導入したユーザーに、本当に導入成果を上げて戴くためには、CAEを設計の道具として使いこなせるようになるまでの少なくとも2〜4年の緻密なバックアップが必要であった。だが、限られた人員の中で業務処理優先度はどうしても新規顧客開拓に向いてしまい、導入を済ませたお客様への対応がどうしても後回しになってしまい、結果として極めて手薄な対応に終わってしまうことが多々あった。
独立開業した5年前、CAEが提唱されて一般に普及を始め既に10余年たっていたのにもかかわらず、CAEツールを導入戴いたユーザーで それが決してうまく活用されてるとは言えな状況があり、先のような売る側からのユーザーサポートも難しさや限界を打破したいとの思いが 私の独立開業のきっかけの一つであった。
から見てCAEを非常にうまく活用しているだろうと思われる会社がよくある。工業専門誌や学会などでもその美しい成果が発表されており、さぞかし効果を上げておるのだろうと誰もが思っている、しかしそのなかには惨憺たる実態もあり、社内のほんの一握りの人達が実業務と遊離した世界で時間とコストの制約をあまり受けずに個人的趣味の世界に浸っているケースや、孤立感に苛まれリストラの影に脅えながら、自己主張の場として外部への発表を精力的に行っている例など、本当に製品開発の生産性向上や品質向上に役立っているとは言いがたい例が各所で見受けられる。
またCAEを製品開発を担う設計者自身が駆使する道具として捕らえず、技術計算屋と呼ばれる、一握りの専門家達だけの道具として活用されている例も見受ける。しかしバブル崩壊以降、推進部署やエンドユーザがこれまでのCAE施策の不備を認識し、改善を目指す製造業が徐々に現れており。中にはこれまでCAE施策を牛耳って来た著名な人々を大学や関連企業などに放出し、本来の目的でのCAE活用への切り替えを図った、ドラスティックな例も見受けられる。《続く》